戦場のピアニスト

戦場のピアニスト [DVD]

ロマン・ポランスキー
ワーナーマイカル熊谷

観た者の判断を停止させるような映画。観終った後に「良い映画だった」と嘯いて家に帰ってさっさと忘れたくなる映画。それだけでポランスキーの術中に嵌るのだろうね。明晰過ぎて何も隠すことが無いが故に観たものを評価するのを観客に大きく委ねたようです。この題材で、主人公の立場も神の視点も取らないとはね、それだけでも大変なことだと思うよ。大体こういう歴史ドラマは客観的な事実に振り回されて説明的になってしまうのだけど。
ポランスキーは、主人公のサバイバルに絞って追い込み、いつの間にかそこで起きていることが、現実なのか、主人公の幻視なのかさえも曖昧にする。死体がごろごろと横たわり、飢えと寒さで時間の経過さえ定かでなくなっていく。それを戦争の巻き起こす皮膚感覚といったら言い過ぎか。そこがポランスキーの視点でもあるのだろう。
ポランスキーの描く部屋の中って、外から逃げ込むところ心地良く秘密めいたところだが、それでいながらも悪意の侵入を容易く許す薄いドアや壁でしかない。しかしそれに縋ることしかできない無防備な者たちがいつもいる。その狭い視野からあまりにも多くの物を見過ぎる。車椅子のシーンなどああいう撮り方しかないとは思うが衝撃がすごい。
徹底的に自然光で照明も簡潔。晴れた光は悪意に満ちている。あー雪が降るんです、良い具合に風に舞って寒そうなんですね。ポーランドではああいう風に降るのでしょうか。
あと色彩のデジタル加工が気になるなあ。パキッとせんのよ白い色が。それも世界と言えばそうなんだけど個人的には納得いきませんなあ。VFXとのマッチングかもしれないけど。