少女ムシェット

少女ムシェット [DVD]
  Mouchette 67 ロベール・ブレッソンNHK‐BS)

 ブレッソンは、つねに最低な条件で最高の効果を引き出す魔術師だ。素人しか使わない頑固さ。手元のクロースアップ。雑音に近い音声の繰り返し。ブレッソンだけは永遠の前衛であり、本質を引き出そうとする監督だ。小さな村に住む、親父は密造酒で生計を立て、母親は病気で寝たきり、しかも小さな赤ん坊がいる。貧しいみんなの嫌われ者となる、ムシェット。この子どもからこれだけの演技をどうやったら引き出せるのだろう。あまりに簡潔で効果的で衝撃を受ける。
 ブレッソンの映画は音、映像、オブジェとしての人間が全て映画に奉仕する。それをシネマトグラフというらしいが、その効果の強烈さにスピルバーグの『プライベート・ライアン』は、ただ忠実に追っているだけだな、なんてことも少しだけ頭をよぎった。それにしても、ラスト・シーンの鮮烈さにはかなわない。壮絶すぎる。それだけで観る価値はある。
 (角田)