シュリ

シュリ [DVD]
 SHURI 98 カン・ジェゲェ(新宿ミラノ

 広い劇場で公開されて良かったです。お陰で多少の粗さも気にならずに観られました。というかそういう風格、この時代には珍しく“マス”(大衆って言葉なのかなあ)に向けて作られた映画と感じた。早く言えば、世界の映画が冷戦終結と同時に“マス”に向けての口実としてのテーマ(多くの人が共感するという意味で)を見失って、矮小になるか敵がエイリアンになるかしかならなくなった状況で唯一残されたドラマが生み出されるところ、南北朝鮮問題にフォーカスを合わせながらエンターテインメントの要素を見事に取り入れたのが面白い一因だと思う。それと同時に、冒頭の北のスパイ養成や銃器の組み立て、扱いのリアルさ(ずっしりと重さが伝わってくる点)などの細部の演出が映画に真実味を与えている。
 ドラマとしての甘い点、恋愛とか済州島のシーンや情報部内部のドラマなどは、『踊る大捜査線』をはじめとする、日本のTVドラマの影響があるのではないか と勘ぐってしまう。センチメンタルさと、ユーモア、人物の対立から出てくるドラマとの割合がそう感じさせる。脚本家、君塚良一の世界が前記の三点のバランスが絶妙の人だ からね。
 『シュリ』の上手い点は、実はクライマックスであるはずのサッカー場のシーン前に、登場人物の感情の流れが観客に完全に整理されて未消化な部分が無いために、ハラハラドキドキじゃなく、結果は分かっているのだが、悲劇がどのように結末を迎えるか、そこに完全に観る側の比重が行くように仕組まれているところだ。だから、この映画の一番の名シーンは一発の銃弾で撃たれ、彼の顔を見つめながら死んでいく、あの崩れるように倒れていくところだったと思う。あの彼女の表情に全てが集約されて感情が見事に頂点を示した。サッカー場というスペクタルな設定を作りながらも、音楽とかアクションで単純にごまかすんじゃなくて、脚本が良くできているために観ていて未消化な部分がない。
 逆に言えば非常にお古典的な話が成立するのは、世界で一番ホットな所でしかあり得ないのかも知れない。
(角田)