ララバイ

ララバイ (ハヤカワ・ノヴェルズ)

ララバイ (ハヤカワ・ノヴェルズ)

「過去を背負った新聞記者が、世界を破滅に導く「死の歌」の本を見つけ、幽霊屋敷専門の不動産社長の女性と、自称環境テロリストと、自称魔女の四人で、本を捨てる旅に出る」。
面白そうでしょ。ここまでは満点だと思います。ジャン・ボードリヤールの世界が、そのまま小説になったような、「デスペラートの楽園としてのアメリカ」の描写の美しさは健在です。でも残念ながら、読み出すと期待が失望に変わっていくんですね。
ラニュークの持つ、ヒリヒリとした皮膚感覚が、善悪を越えて消費社会の希望と絶望と欲望を渾然としていく様が、いつも魅力なんだけど、どうも書き急ぐ癖があるようで、消化不良のままに進んでしまう部分がもったいない。もう少しタメがあってもいいのにねと思う。その一方で省略法はあまりうまくないので、ただ性急な印象しか受けない。
ファイトクラブ」の殴り合い、「サバイバー」カルト宗教の洗脳、「インビジブルモンスター」の手術のようにもっと登場人物の生身の痛みに近づけたら良かったのに。大上段に拡げた設定の面白さとそのあたりは紙一重なんだけどね。登場人物の「喪失」の痛みがわかるにはエピソードが少ない気がする。
その意味で映像化というか、コミック化するのが一番伝わりやすいのではないかと妄想するのだけど。本質的なB級映画の要素は全部入っているし。ここまで書いていると、それほど否定する本じゃなかったのかなと思うなあ。少なくても私の読み続けたい作家であることは間違いないです。