Date: 2003-10-31 (Fri)
ドナルド・E・ウエストレイク著。

鉤 (文春文庫)

鉤 (文春文庫)

今頃ようやく読みました。こんなこと書いて翻訳されなくなると困るんだけど、なんでこれを出版したのか不明だ。
アイディアも『見知らぬ乗客』で、二人の作家の話も古典的で「ダーク・ハーフ」なんていうのもあるしなあ。
ストーリーがサスペンスとして上滑りなのが気になる。
二人の作家が、時間が経って再び会うと成功者と失敗者に別れていて、成功者の悩みを解決して両者がともに利益を得るために悪魔の契約をする物語を、ある意味悪意とは別の幸運な悪魔の側から描くという試みは面白い。
しかし、本来話が展開していくうちに、登場人物たちの内面が変化していき、思わぬ方向に進むはずが、一方の登場人物たちの心境の変化が無いため、結果として、片方の人物だけが追いつめられるだけで読んでいる方はなんで?と納得がいかない。理屈としてそうすることでありきたりなサスペンスを回避したいというのはわかるのだけどもねえ。
珍しく観念的な作品でした。ふたりの人物を等分にそれぞれ描こうとしたのが、うまくいかなかった原因かもしれない。映像化なら良いかもしれない。ついでに言えば小説家というアイディアもうまく機能していないのですよね。二人の描き分けが今ひとつ…。