聞こえてますか、映画の音

聞こえてますか、映画の音(サウンド)

聞こえてますか、映画の音(サウンド)


録音技師、久保田幸雄の仕事を、劇映画、ドキュメンタリー、インタビュー、『酔いどれ天使』の音の世界の分析、という章立てで見ていく。
これを読めば日本映画における音はどのように考えられて、どのように録られ、どのように構成され、画と合わさり映画になっていくかがわかるようになっている。
久保田氏が記述する映画の現場の話は面白過ぎる。岩波映画からその映画キャリアがはじまり、そこから出てきた小川紳介土本典昭らのドキュメンタリー、東陽一黒木和雄たちの劇映画との仕事を通じて、いわゆる撮影所時代以降のロケーション中心で映画を撮る、いまの時代が映画製作のスタイルが活写されている。
基本的に現場にある音から発想をはじめて、そこから映画のテーマ、シーンとすり合わせながらどのように印象付けるか、音を拾い集めては捨てる、気の遠くなりそうな作業を丹念に繰り返す。それでいて必要以上に目立つと映画を台無しにしてしまうので、慎重に音を付けながら構成されていく。
また製作現場の悩み、録音と効果音の関係、作曲家、演奏家との関係、同時録音とアフレコの関係、ワイヤレスとブームマイクの違いなど、知り得なかった、聞き逃していた興味深い映画術の秘密を具体的に明かしている。
本人には書きづらい部分、それを補う円尾敏郎氏のインタビューも充実しており、時代を追いながら技術や機材についての解説、監督をはじめとする映画人について、まさに知りたいことを聞き出している。
氏による『酔いどれ天使』に使われる音についての考察は、それ自身が優れた評論になっていて、撮影所時代の録音、整音についてもわかって興味深い。
たいへんな労作であり貴重な証言が詰まっています。特に劇映画は好きだけど、ドキュメンタリーはねえと思っている人には是非読んで欲しいです。ドキュメンタリーを作るときにスタッフがどのように被写体に想いを寄せて、それを観客に伝えるためにどのように機材を駆使していかに作品に具現化していくか、その苦労とスリリングな行程を知ることで、縁遠かったドキュメンタリーがより身近に深く理解できるようになると思います。

久保田氏のフィルモグラフィー
http://movie.goo.ne.jp/cast/87466/index.html