幕末

幕末 [VHS]
(1970) 監督・脚本:伊藤大輔
http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD19206/index.html
さすが伊藤大輔先生、御年72歳の作品ながらまったくタルみのない演出。ひとことで言えば「斬、惨、懺」この“ざん”という言葉がこれほど似合う人も珍しい。それもまさに傷口に粗塩を擦り込むエグさでもあるねえ。
冒頭の土佐藩での一コマ。内職する貧しい下級武士が親切心で町人に傘を貸してやる。町人は帰路酔っ払った家老に絡まれる。町人は泥まみれになりながら斬り捨てられる。下級武士も同様に返り討ちになる。そこに偶然通りかかった下級武士の弟が仇を討つが(家老は槍で止めに入った坊主もろとも串刺し)、家老の仲間に追いかけられて逃げ込むのが、中村錦之介扮する坂本龍馬たち改革派のいる屋敷。ここで武士だから、建前で身分差で腹を切らないとならぬ状況に追い込まれ死んでいく悲惨さまで一気に描ききる。この悠然として急がないが的確な語り口に唸る。シナリオライターとして凄すぎますねえ。
でもね、この時代1970年にはもはや時代劇が終わったころがよくわかりますね。同時に日本映画の全盛期も。錦之介はもはや青年ではないし(38歳)、吉永小百合(25歳)もおぼこ娘でもないし、いまの目から見ると若いじゃんと思うかもしれないけど、でも圧倒的に若さが足りないのが画に出てしまうのですね。そのあたりの若作りがねやはり苦しいのですよ。演技はもちろん若いものよりも上手いのだけど、そういうことじゃないなぁとつくづく感じる。歌舞伎や森光子なら死ぬまで座長芝居で生娘とか若武者が演じられるけど、それは舞台の世界のお約束であり記号だからね。なぜか映画はそういうわけにもいかないのですな。18歳の人間が25歳を演じてちょうどいいんだよね。映画は難しいメディアだ。その意味では永遠に爛熟できない芸能なのかもしれない。
原案に司馬遼太郎とあってほとんど「龍馬がゆく」なのですが、最後に四民平等の構想を語り、天皇制廃止まで訴える部分は伊藤大輔のオリジナルじゃないかな。よく観ていると、明治維新を語りながら実は昭和天皇の戦争責任を問うているのがわかる。そのあたりも戦前の検閲逃れや傾向映画の頃のテクニックを使っていると思う。この人の一貫性というか頑固さというか筋が通っていますねえ。
ラストの旅籠のシーンもわざとセットだと分からせる演出をしたり実験的なことも平気でするし、風俗風習や美術たとえば屏風絵とか細かい部分もちゃんとしたものを使っているに違いない。知識が無いのでそれがわからないのだけども、土佐の絵師金蔵とか関係あるのかなあ。きっとなんかやっているんだろうね。