城山(埼玉県荒川村)

土曜日の予報は曇りときどき雪で気温3℃のはずが、起きてみるとぽかぽか陽気の快晴。日曜日は曇ったり雪だったりのはずが、普通の曇り空でやんなっちゃう。
悔しいので正午から出掛ける。もう時間が遅いので近場と思ったが、ほとんど制覇したので仕方なく一度行ったとこかなと諦めかけたが、 秩父の城山があることを思い出した。熊倉山の手前であまり知られていないが、秩父で一番ハードらしい熊倉山の偵察も兼ねて、3時間ほどのハイキングコースらしいので行ってみる。
14時。「道の駅荒川」から歩き出す。もうこんな時間なのだし天気も今ひとつなので人出も少ない。
秩父鉄道沿いにとぼとぼと歩く。20分後、隣の白久駅の手前で曲がるはずが駅まで着いてしまう。鄙びた駅で良い感じだねえ。駅前に懐かしやカップヌードル自動販売機。使えるのかな?ここのあたりは鉱泉宿がたくさんあるようだ。ランプの宿とか看板が出ている。へえーどんなところか泊まってみたい。
それはともかくガイドブックを取り出し、道順を確かめながら戻る。
道標の無い分岐を発見して曲がり踏切を渡り、ようやく畑の間を抜けて杉林の端にある登山道入口に出る。
雪が積もっているがここらでは5センチくらい。だれか歩いた跡があるのでその足跡を踏んで行く。なだらかな坂道で、ちょっと急だったり端が崖だったりするところには親切にも階段が着いているので怖くない。融けかかった雪がドサドサと絶え間なく落ちてくる。少しは暖かくなってきているのだろうか。暑くなり長袖シャツを脱ぎフリースとTシャツだけになる。
20分ほどでNHKの電波塔にたどり着く。ここで足跡は引き返していたので、ここからは新雪だ。ずっと尾根沿いの道が続いている。しかも登ったり降りたりとめまぐるしい道だ。ちょっとヤセ尾根ぎみで、歩くところが狭くて緊張する。しかも雪がシャーベット状になっていて、靴が滑るので慎重になってなかなか進まない。
はあはあ言っていると、前方の山で「ゥギャーァッー!!」という悲鳴が聞こえる。目を凝らすが、声のしたあたりの木々が揺れて何かがドサッと落ちていった。ゲッ鹿が熊に襲われたのか、いや熊は冬眠中だ(>いやクマは雑食だがシカは食わないだろう)。ならばなんだ、そうだ野犬だ、野犬の群れだ。逃げるか?行くか?
しばらく木の陰に身を潜ませる。そのうちに高い木の枝がしなり、何かが飛び跳ね、山を駆け下りていった。なーんだサルじゃないか。3、4匹の群れでケンカしていたみたいだ。ほっとする。そういえばサルやシカの足跡がやたらにある。
この山はそれほど高さが無い割には懐が深いので距離の感覚が掴みにくくどんどん奥へと引き込まれていくようだ。しかもなんの案内板も無く、木に赤いテープがあるだけなので不安感もある。ハイキングコースだということできちんとした地図を持ってきていない。
時々開けた東側から雪を被った武甲山が見える。葉っぱが無いと林道とか里の風景が見えちゃうんで春とかの方が面白いかもしれない。家族向けコースだ。
飽きるほどアップダウンを繰り返し、今度こそは頂上かないう開けたところに出る。
城山は名前の通り、戦国時代の山城、いわば砦みたいなもので、いまはなにも残っていないが周りにちょっとした堀が巡らせてある。
16時頂上に着く。相変わらず道標が無い。まあここで良いのだろう。
が、問題が発生。頂上から先の赤テープが見つからないのだ。辺りを見回し、深さ20センチの雪を掻き分け歩き、ちょっとした児童公園くらいの広さの山頂を見回すがどこにも見当たらない。困った。
登ってきた西側を少し引き返してみるが下り道の分岐は無い。
東側に堀がありそこを越えてると手入れされた杉林があるのだけど、どうも先がどうなっているのかがわからない。
北と南は崖で道はない。
時間が刻々と過ぎ、16時30分になった。また雪山遭難パターンなのか。焦りと不安でちょっとしたパニックが起こりそうになる。
まずどうするか。落ち着くためにポットから熱いコーヒーを注いでゆっくりと飲む。寒さで頭脳がイカレないように、まともな判断ができるようにする。
取るべき行動を整理してみる。
1.とにかく杉林を進んでみる。
2.来た道を引き返す。
3.ここでビバーク(野宿)する。
時間から考えて来た道を戻るにしても確実に陽が暮れる。一方ここから出口の林道までは10分で行けるとガイドブックにはある。
ということは現実的に出口までの距離は短いはずだ。
いままでのルートを考えても難しい険しい道ではないはずだ。
たぶん尾根伝いの道を探せば良いということだろう。ということはやはり東の林だろう。
杉林の中で迷ってもコンパスで頂上の位置を確認したから戻れるだろうし、最悪この杉林なら雪は降りこんでこないのでビバークできるだろう。しかも明日は気温が今日よりも10℃は上がるのだから寒さには不安は無い。
と、ここまで整理できたので杉林を進むことにする。人の手が入っていて木が伐られたりしているので不安が減るのを感じる。
300メートルほど進むと堀があるが一部盛土されていて容易く通り抜けられるようになっている。
ふと、数年前にウチの近くの山城跡を好奇心から登ってみて、 頂上から降りるとき堀が邪魔してまっすぐいけず遠回りになるからと、堀に下りて反対側を登ろうとしたら全然登れずあえなく敗退。500年以上昔のものだからといって敵から守る築城技術はバカにできない身をもって感じたことを思い出した。
だから城の堀は敵が越えるのが困難なように掘られているので、この盛り土は最近のモノで人工的なものだなと直感しこの方向でどこかに通じていることを確信する。
程なく左手に道が見えた。どこかに頂上から堀を迂回した道があったようだ。
合流しホッとしてゆっくりと降りていくと林道が見えてきた。
この状況判断のドタバタさ加減はまさに実録「底抜け脱線ゲーム」だな。知力体力技術力のすべてが必要だ。無駄かと思った雑学経験も役に立つものだ。うまくいったから良いようなものだけど下界じゃ考えられない思考ゲームだよなあ。普通に野宿とかいう回答選択肢が出てくるのだから。
林道に出ると駐車場になっていて、ここからさらに熊倉山に登る登山道がある。でもこの時期クルマは通れない。
舗装された林道を左手に降りて行く。誰も踏んでいない雪道を進むとどんどん深くなり、終いには膝まで潜るようになる。こんなところで冷たいおもいをするとは思わなかった。くねくねと曲がる林道を下っていくとようやく里に出る。
沢のせせらぎが気持ち良く、静かな山の麓という雰囲気で夏に来たら気分良いだろうなあ。
陽が西に傾きかけた頃、17時30分、ようやく出発点の道の駅に到着。短い時間だったけど面白かった。
なにはともあれ、出発は余裕を持って朝早く。地図は必ず持つ。これは鉄則だなあ。
反省。だけど楽しかったねえ。
次回は晴れることを祈る。
<参考>
http://home.att.ne.jp/moon/daytrekker/tr/tr_20030329.html