大江戸の侠児

1960年 加藤泰
原作は山上伊太郎、戦前の巨匠だ。どこが巨匠といわれるのかピンと来なかったのだけど、加藤泰によって整理し直されたこの作品を観て唸る、ひたすら唸る。
古典的な劇作法と言われればそれまでなのだけど、その徹底さ加減が破綻無く練り上げられているので参った。ひとりのばくち打ちが鼠小僧次郎吉になり、最後は一応ハッピーエンドなのだけど、どう考えても幸福には終わりそうも無い予感。各人の運命の綾がどう繋がっていくか脇の人物設定からすべて計算され尽くされている。そこには物語の都合で作られたドジな人物とか訳知りの説明キャラはいない。登場人物の善意が空回りして、偶然によって第三者を通じて悪意に変わり、それが全員の悲劇になっていく。まさに古典が血となり骨になっていないと書けませんな。
加藤泰の演出はまだキャメラが動き回り、長回しもそれほどない。彼が語ったように「時間が無くカットが割れないから長廻しになった」というのは存外本音ではないだろうか。