コカイン・ナイト

コカイン・ナイト

コカイン・ナイト

できれば本書を読む前に、南欧のリゾート・コロニーの写真をいくつか見てイメージを脹らませて欲しい。その国の貧しい地域に忽然と現れる、清潔なコンクリートで護られた都市。住人は財産を築き 40代でもリタイアした金持ち夫婦。やることといえば、エアコンの効いた室内で衛星テレビを見ること。まさに一昔前のアジアの植民地の風景ではないか。
そんな死んだようなリゾートを活性化させた男がいた。かれのお陰で皆生き生きとして新しいコミュニティーを築き上げようとしていた。そんなとき事件は突然起こる。豪勢な屋敷のひとつが放火されたのだ。犯人はリゾートを活性化させた彼だ。しかしだれに聞いても彼が犯人でないと言う。果たして真相は。この地ではなにが進行しているのか。
「SFは未来についての心理学である」という作者にとって、リゾートコロニーはまさに人類の実験箱に映ったのであろう。テクノロジーと人間の本性である暴力。西欧民主主義社会が両者は、進歩と退化という相反するものとして隠蔽していた建て前は、9.11で脆くも衛星中継で瞬時に全世界にあからさまにされた 。著者は予言的挑発的に煽る。
本書は形式としてミステリーを踏襲しているが、SFなので後半で裏切られるので注意。「クラッシュ」、「ハイ・ライズ」、「殺す」などが気に入った方にはお薦め。