噂の娘

噂の娘 (講談社文庫)

噂の娘 (講談社文庫)

1950年代というよりも昭和30年頃の地方都市。家庭の事情から美容室に預けられた小学生の女の子が、その家で一緒に暮らす女たちとの会話を思い出しながら、曖昧に進むひと夏の時間が描かれる。
 気怠い昼下がり、夕方の驟雨、買ってきた総菜の匂い。たわいもない近所の噂話。なんといっても映画スターの話。
 金井美恵子の若き日の作品からある幻視と細かい感覚、目白三部作以降のだらだら会話体の文章、そして映画の話しとが渾然一体となって魅力的な文章になっている。 さりげなく仕掛けられた作者の罠に心地よく掛かるのも良いだろう。全く知らないその土地と時代なのに懐かしく近しく感じることができるのはなぜなのだろうか。ひたすら読むべし。