素粒子

素粒子 (ちくま文庫)

素粒子 (ちくま文庫)

フランスのパリ郊外に住む中年の地味な独身科学者とその兄の学校教師、彼は絶倫で常に女を求めている。今度の短い休暇もヌーディスト村で過ごすつもりだ。なにか良いことがあるかもしれない。彼らの母親はヒッピーでありいまも宗教にハマッテいて、彼らは祖父母の元で育てられた。もともと二人の父親は別々なのだが。たいした事件も無くいくつかの死があり、その合間に彼らの押しつぶされそうな陰気な生い立ちが描かれ、また時間が淡々と過ぎて行く。
どん詰まりの西欧社会の壁の割れ目から滲み出してくる雨水のようにどこまでも陰鬱な小説だ。なにも安直なドラマや救いもない。中流と余暇と公務員が退屈にだらだらと生きている社会像。ドラマにならないこの風景こそヨーロッパの実像のひとつではないだろうか。