夢翔る人 色情男女

 色情男女 イー・トンシン(新宿シネマミラノ)

 返還前1996年の香港作品。映画を愛する人々に捧げられた作品。といっても、トリュフォーの「アメリカの夜」とは随分印象が異なる。香港映画に内面的描写など求めてはいけない。ただし映画(人)への愛情は勝るとも劣らない。
 レスリー・チャン扮する売れない芸術志向の映画監督が、軽蔑していた「ポルノ映画」を撮ることになり、商業主義のプロデューサーやわがままで大根の主演女優たちに翻弄されながらも、やがてスタッフの信頼を得て(売れない映画監督「イー・トンシン」が入水自殺を図るというエピソードやレスリー・チャンが「変態家族 兄貴の花嫁」のビデオで観て勉強するというエピソードが挟まれている)難航の末になんとか撮影を終了するのだが…というのがストーリー。
 ウォン・カーウァイのポップで洗練された映画(作品中にも名前が出てきます)ぐらいしか、最近の香港映画は観ていなかったので、久しぶりにこういった「ダサい」香港映画を観て少し戸惑った。丁寧な内面描写ではなくアクション(エピソード)の積み重ねで強引に話を展開していくあたりはいかにも「古典的」香港映画で好感が持てなくもないですが、疾走感が得られるほどではなかったのは残念だ。ただし、この映画の魅力は「レスリー・チャン」その人だろう。新宿で金曜日の晩に観たのだが、観客の9割は女性客で、みんな作中のレスリー・チャンには満足していたようだ。役者目当てで映画を観に行く、というのも正しい映画の観方だろう。
 (船越)