ゴダールの新ドイツ零年

  ALLEMAGNE ANNEE 90 NEUF ZERO 91 ジャン=リュック・ゴダール (ビデオ)

 いつの間にかゴダールの作品には「ゴダールの」という枕詞がつくようになり、とともにますます不明瞭なイメージの洪水の世界へと向かい出しているようだ。
 ここには映像化されるイメージが何一つない。未来へ向かうベクトルが何一つ見つからない。かと言って過去を振り返るベクトルもない。空中分解したまま、年老いたスパイ、レミー・コーションが取り残された過去を取り返す冒険(決して新しくない)への旅立ち
なのかも知れない。
 しかしそこにはもはや、美女も強敵も現れない、年老いた自分の姿と壊されたベルリンの壁の残骸しかない。
 どこに向かうでもないこの閉塞したドキュメンタリーは、ドイツの状況に対するゴダールの痛烈な答えかも知れない。新しいドイツなどどこにもないと。その喪失感だけで成り立っている。もはやスパイも探すべき物語もドキュメンタリー映画監督も必要ない。それがドイツに対する彼の意見ではないだろうか。
 (角田)