クルシメさん

クルシメさん/アトピー刑事 愛の井口昇劇場 1988-2003 [DVD]
 97 井口昇(ビデオ)

 56分のビデオの中に込められた想いは存在するのか。この作品に関しては答えはイエスである。ビデオという日常というか、どこまでも被写体に肉薄するメディアを巧み使い、登場人物の存在を少しづつ露わにしていく過程がそこには映されている。
 ストーリーは、大きな公園で落ち葉清掃をする女の子たちの話。一人は、好意を持つと相手が一番嫌がることをする発作を持っていて、もう一人は、可愛いが、普段は見えないところに身体的な欠陥を持っている。この二人を軸にして話はダラダラと進む。
 演出はフィルム効果で撮られているが、時々ビデオの生の画が挿入される。それも感覚的に不意打ちで入ってくるので結構どきっとする。その生々しさが映画における、いや ビデオにおける リアリティの境界を曖昧にしてスリリングなのだ。ビデオだから生々しいのか、映画としてきちんと成立させようとする事がリアリティなのか混乱してくる。そして映像は容赦なく観ている者を物語のドロドロの関係の中に引きずり込んでいく。
 よくある女の子映画とは全く縁のない奇妙な関係性だけで物語は進む。アップと手持ちを多用したホームビデオの世界のような映像の中に入り込んでいく奇妙な感覚に取り込まれていく。そう、引きずり込まれる要素は、監督自身の撮影の構図と編集の巧さにもある。ともに映画的構図とは無縁のマンガの構図、コマの流れに従った編集、なめらかではないが観ている者の欲望に従った編集は斬新だ。Vシネマとも、テレビドラマともちがう、 『映画ビデオ』とでも『ビデオ映画』とでも言うべきジャンルが出現し始めている気がする。そこにはマンガの影響が見え隠れしている。ビデオで作品を作ってみたい人必見。
(角田)