香港 小心地滑日記

【7/15(月)第2日】南Y島漂流、朝飯奇譚、ヒルサイド・エスカレータに驚愕

 あさ起きると小雨。テレビの天気予報では、気温29度。湿度94%。ううっ、しんどい。冷房がんがんなのでなぜか掛け布団には薄い毛布。だけどこれでちょうど良いくらいだ。       ホテルの窓からも高層アパートしか見えない
 

 いざ出発と駅周辺を探索。近所の賽馬會徳公園に行く。ちょっとしたショッピングセンターくらいの敷地の公園は、いぜんは誰かの屋敷だったようだ。園内は白い石畳にコンクリートの屋根付き回廊。装飾が沖縄の首里城とかの感じ。回廊の囲まれた中に大きな池があり、鯉や亀が泳ぐ。築山もあるがまったく土は露出せず、すべて石畳で覆われている。中国寺を人工的にした雰囲気だ。日陰で新聞を読んだり、おしゃべりをする老人たちで賑わっていた。
 少し古い建物が立ち並ぶ界隈を通ったが、街はごみが落ちていたり、目に付くところに集められたりしてない。ごみの腐臭もない。車の運転も荒くはない。ミニバスはけっこう跳ばしているが。タクシーも渡る人を煽るようなことはしない。まちなかでの怒声も聞かなかった。もちろんみんな信号は守らない。待っているのは我々くらいだ。

 

 で、朝飯ということになり、駅周辺へ向かった。駅前の新しい商業ビルでは、キティー・カフェというサンリオキャラの軽食屋があった。またジャンクフードの店が、パンとソーセージの朝食メニューが繁盛していた。隣のレストランでは、朝の飲茶が始まっていたがだれも入っていない。昨日食べ過ぎで中国料理もちょっとという気にもなっている。そのうちに道に迷い(またかい)放浪すること30分。汗はかくはで、はやくもヘトヘト。ようやく一軒の店を見つけて英語で書かれたメニューを確かめ、えぃと入る。食券形式らしく、英語の通じないねえちゃんに何事か言われるが、てきとうに頷き、ふたりだというと、朝食メニューにかないとメニューを指さされる。げっと思ったがこれ以上歩く気にもなれず目見当で注文する。まわりをみていると澳門マカオ)料理の店だとわかる。そのうち待っても料理がでてこない。早くできるのが中国料理じゃないのかと思ったが文句つけられる語学力もないので黙っていた。すると給仕のおばちゃんがなにやらわめくので、食券売り場に行くと、発泡スチロールの容器が入った白いビニール手提げ袋を渡される。なんと最初に聞かれたのが、お持ち帰りかどうかだったらしい。そんなことガイドブックにも載ってないぞ。と抗議もできないのですごすごと撤退する。さあどこで食べようと思ったけど誰も外では食べていない。良く考えたら、暑いのにすぐ近くにたくさん安い食べ物屋があるのに外で食う奴はいない。仕方なしに駅裏の噴水の横のベンチを見つけ食べることにする。

 よく渋谷などで西洋人観光客が外で牛丼とか食べているのをみかけたけど、日本でも同じようなやり取りがあったのではないだろうか。
 
容器の中身は、トーストと目玉焼きにソーセージにアイスコーヒー。Mはトーストの代わりにハムとソーセージが入った麺。ハムがむかし懐かしコンビーフ入りの分厚いかまぼこの大きさの魚肉ハムの味。ソーセージも薫製というより腸詰めの味。中国ハムってこんな感じ。けっこうわたしは好きな味。コーヒーは砂糖ミルク入りで噂どおりものすごく甘い。「茶文化圏はコーヒーが洗練されていない」の鉄則どおりだ。
  こんなわれわれにも係わらず、ベンチで隣に座っていた胸をすこしはだけたシャツを着た男たちは無関心だった。香港名物の鳥かごをもって鳴かせているひともいた。ちょうど駅は地下鉄と郊外行きの電車の乗換駅で、噴水のところも駅の上にあたる。コンクリートの駅前広場の隣には小学校があり、その隣には高層アパートが何棟も立ち並んでいる。日本で言えば、駅前の立体広場に学校があり、駅ビルの上に30階のアパートがいくつもあると想像してもらえばわかりやすいと思う(余計わからないですかね)。



 地下鉄で中環(セントラル)まで行く。相変わらず携帯電話の着信音。車内で寝たり、本を読む人は少ない。若い女性で日本語のnonnoを読んでいるのも何人かいる。ちょっとしたキオスクでも売っていた。こちらの芸能情報はここで手に入れるようだ。
 地下鉄の出口案内は合理的で地上までは簡単にたどり着くが、出た途端に目標物がなくなるのがここの特徴。だって街じゅう似たような看板だらけなんだもの。方向感覚には自信があるほうだけど、まったくわからない。しかも、地上を歩いていると、急に広い交差点に出て渡るところが見つからなかったり、地上二階でビルの中をくぐり抜けていく通路が複雑だったりして、なかなか目的地に着かない。教訓としては、まっすぐ目的地の方向に進んでも近道になるとは限らないので、広い道やなるべく人の流れにしたがう。それに気づいたのは最終日だったけどね。      スター・フェリーから香港島を望む。うしろの山がビクトリア・ピーク
 

 で、ぐるぐる迷って(またかい)、ようやく南Y島(ラマ島)行きのフェリー乗り場にたどり着く。ここまで駅から15分。隣のスターフェリーの乗り場から5分かかる。フェリー乗り場は島ごとによって違うので注意。チケットを買い、一息ついて私はギネスビールを、Mはコカコーラを買う。缶入りギネスは苦すぎ(ビール文化もいまひとつだ)。コーラはプルトップが昔のポイ捨て型だった。

  また小雨が降り出したなか、100人乗りくらいの小型フェリーは、高い波を越えて南Y島に向かう。海は粘土のような泥色。湾内を多くのフェリーやサイパンが行き交う。沖合いにはタンカーが止まっている。30分で南Y島の南の港、索罟湾につく。湾内にはいくつもの生け簀がみえる。桟橋からの道沿いには何軒もの海鮮レストランが広がる。まだのんびりとした感じが漂う。それを過ぎると文字どおり何もない(……)。昼飯にも早いし、フェリーはこことセントラルの往復なので島の北側には行けない。仕方なく、八甲田山を登る決意で、90分ハイキングコースを歩くことにする。なんで香港でバイキングではなく、ハイキングなのかというベタな疑問は封印する。      湾内の漁村風景。生け簀が点在している





 



 樹々は背が低く葉が広い、広葉樹林でジャングルというほど鬱蒼とはしていない。島の中腹へと登ると木はほとんど生えておらず、山の斜面は蒼々とした雑草に覆われ大きな岩が点在する。まるで低予算カンフー映画の決闘の場の様だ。尾根から見ると南シナ海が西側に広がる。といっても島の間の海峡くらいにしか見えない。  

しばらくすると小さな浜辺に出た。まだ海に入る人も少ない。小さなレストランで休憩を取る。と、長髪のカメラマンと白い帽子をかぶった若い女性が来た。どうやら取材らしい。いかにも業界人ファッションなのかnonnoを読んでいるのか、帽子の女性は他にひとりも見なかった。ここから北側の榕樹湾までは人通りが多く、外国人の別荘や若い人たちが、旅行なのか多く見られた。八百屋にはドリアンが売られていた。




ようやく港の入り口にある、海鮮レストランに入る。ビールは大瓶の青島ビール、エビと野菜の炒めもの、貝と豆腐のスープ、水槽から取り出した、体長30cmの魚(ハタ)の蒸しもの。 さすがにこれだけで腹いっぱい。で300HK$。いやここはコックの腕がいい。野菜への火の通り方など微妙に野菜のシャキシャキ感を残しているなんてなかなかのもの。



 南Y島には夜、海鮮料理だけ食べに来る価値はあると思う。なんて南国気分に浸っていると、船に乗る現金が足りないことに気づく。銀行も時間が遅く閉店している、共通パスでは乗れないというし、両替のできるホテルもない。困った、電波少年のように野宿か、皿洗いのバイトをするのかとの考えが一瞬脳裏をよぎる。もう一度だけ銀行の横のATMをじっくり見ると、なんと上の隅にクレジットカードが使えるカードのマークがあった。なんとか現金をおろすことが出来た。ばかだねえ。

 
 さまよいながらも南Y島を脱出に成功したわれわれは、ビクトリアピークに向かおうとする。が、ふもとから見ても山頂は霧に包まれて見えない。じゃあここから近くて天気が悪くても良いところというので、世界一長いエスカレータの「ヒルサイドエスカレータ」に向かう。これは映画『天使の涙』に出てくるあのエスカレータ。繁華街のビルからはじまって、大胆な急勾配を昇りながら街を横断していておもしろい。これが延々と1キロくらいの区間、途中で降りられるように道路と連絡しながら何台にも分かれて動いている。高さで言ったら20階分くらい登っているのではないだろうか。もともと階段のあるところの横に作られているので、すぐ脇にオープンカフェやスポーツ・ジムなども見られ、ちょっとしたおしゃれな雰囲気の場所になっている。NO FILMMINGと書いてあるのは映画の影響だろう。夕方だからか利用する人は多い。登っていくと上の方ほど新しく高級のマンションになっていくのがわかる。

 
狭い土地にどこまでも伸びる高層ビルや立体交差の多さは、地震がないから細い鉄骨でいいんだろうと思うけど。それにしても、建築中のビルを見ると、遥か上まで足場が組まれているが、これがぜんぶ竹。一本3メートルくらいの竹を針金も入っていないプラスチックの紐で結んだだけで組まれている。一番下の足場は、地上に接地していないのだから。どうやってビルを作るんだか。でも他にも、考えるとどのビルにもエレベータや空調、水道管があるわけで、それだけで一大産業だよな。『未来世紀ブラジル』のロバート・デ・ニーロのような偏執狂の職人がいるのだろうか。

 と、エスカレータが高級マンションの入り口で突然終わる。終点にここからビクトリア・ピークまで歩いて行けると書いてある。バスでケーブルカー乗り場まで10分くらいで行ける。バス停の近くに不動産屋があり、物件が出ていたが値段なの基準がわからない。ここらに別荘が持てたら最高なんだけどね。

 二階建てバスに乗り、山を下る。二階からみるとこれが恐い。アップダウンの激しい山道やバイパスを通るのでちょっとしたライドもの感覚。あっという間に市内まで降りてきてしまった。有名な中国上海銀行が目の前に見える。でかい。このあたりのビルを見ていると遠近感の感覚がゆがむ。無秩序に建てられた建物の間を人や車が普通に通り過ぎて行くと変な感じがする。ビルから出てきたスーツ姿の人々が歩くなか、公園で太極拳している壮年の男がいる。不思議だ。


スターフェリーは地下道を抜けてすぐ。乗り場では両替が出来たり、コーヒーショップもある。ディーゼルエンジンのうるさい軽油臭い船内は古くさいイメージがある。約10分感覚で2隻がピストン輸送しているが、九龍と香港島は地下鉄のほうが便利にできている。対岸に渡るとちょうど7時30分で陽が暮れる。すぐ脇の公園で夜景を見る。やはりきれいだ。ネオンサインは日系と韓国企業が目立つ。フェリー乗り場に映画の撮影隊がいた。といっても照明部も録音部もいなかったので実景だけだろう。キャメラもARRIのBLだったし。

 



 ここからバスに乗るが、冷房車じゃなかった(焦らないで冷房車を探すのが良い!!)。走っているときはいいが、止まると汗が吹き出る。通りの左側の車線がほぼバス専用レーン。同じ方向に何台も行くので、バス停で混まないようにバス停の位置を分散させてある。だからどこに停まるかを知らないとバスに乗れない。バスとバス停に番号が振ってあるので、その通りにいけば間違いない。バス停にも路線図は書いてある。混んでいるネーザンロード(彌敦道)を競い合うようにバスが行くので冷や冷やする。ドライバーは運転技術はある(ぎりぎり数センチまで車間を詰めるのでこわいが)。

 地図を見て旺角で降りる。ここも尖沙咀に劣らずにぎやかなところ。こちらはブランドショップやホテルがそれほど多くない。でオタクビルの新和中心に向かう。東京にもいそうなオタクな若者が次々とビルに向かう。ビルは4階までエスカレータで昇れ、店内にアニメのVCD や広東語のマンガ、フィギア、アイドルグッズの店舗がぎっしりと並んでいる。各店人でいっぱいなのだが、店先のモニタから日本語が流れそれを熱心に見ている香港人がいるとここがどこだかわからなくなる。ほとんどが日本からの直輸入がウリのようであまり珍しいものはなかった。
 ビルを出て、女人街へ向かう。テレビ番組で良く見るところだ。道路をふさぎ両側に屋台が出て5メートルほどの天井まで洋服が並べられている。Tシャツ、下着、タオル、ぬいぐるみ、時計などの店があるが、品揃えは似たものが多かったし、それほど変わったものやコピーものも見あたらなかった。しかしとりあえずこちらでTシャツを買って着ようと荷物を少なくした我々は、その後デパートや商店を探しなんとか買い物できた。
帰りの地下鉄で腰までのチャイナドレスにロングスカートの若い女性を見かけた。なんとも恰好良い。こちらの女性はTシャツにジーンズ姿が多かった。スリムな体型でも良く食べるから不思議なものだ。

 

ホテルに着くころには疲労困憊しているが、腹はそれほど空かない。悔しいけど食べられないので、マクドナルドへ行く。店員の対応は遅く、バイトが5人くらいいるのにカウンターは一つしか開けない。マクドナルドはこちらではあまりステイタスが高くないらしい。10時でも小さな子どもを連れで来ている親子もいた。宵っ張りの街だ。
 ホテルのテレビでは「ショムニ」の吹き替え版をやっていた。若者向け音楽番組では日本のプロモが良くかかっていた。近畿小子kinki kids)には笑った。深夜には60年代くらいの白黒映画。二枚目とチャイナドレスの美女の恋愛ものだった。