内なる殺人者

内なる殺人者

内なる殺人者

 ひとの中にある邪悪な本質を識るのに、「罪と罰」のような三文メロドラマを読む必要は無い。ジム・トンプスンがあればいい。ここには、 ロシアの文豪もたどり着けなかった地点が凝縮されて描かれている。 ハードボイルドの始祖としてのダシール・ハメットも結局は19世紀の人間であって、小説に浪漫主義的な理想部分をどこか捨てきれないでいたと思う。
 そこから入った読者はこのトンプスンのあまりにもそっけなく、救いのない物語舞台に、なにかを見出すことはむずかしい。受け入れるか嫌うかどちらしかない。どちらにしても今までの世界が壊れることは確かだ。その覚悟がおありならこの本は絶対に読むべきだ。覚悟が無ければ、卑しい街を男がひとり歩いていく小説を読みつづけることだ。