ポップ1280

ポップ1280 (扶桑社ミステリー)

ポップ1280 (扶桑社ミステリー)

 「雑貨屋のドストエフスキー」と呼ばれ、ようやく再評価され出した、ジム・トンプスン。この小説、実は読むのにというか、読み始めるのに異常に時間がかかった。なぜか。こんな文章を小説として読んだことが無いからだ。主人公の目を通してみた田舎街の描写、これがなんか変だ。アタマが悪い人間がスローモーションのようにふわふわと歩いている、そんな印象なのだ。
 こんな語り口ってあり?!と驚く暇も無く、事件は欲望のままに進んでいるように見えた。典型的ないなかの事件の展開である。セックス、金、暴力。パルプフィクションとしてストーリーが展開しながらも、人物造型が複雑に現代的だ。チャンドラーほど、気取ってなく、マクドナルドほど陰鬱ではなく、スピレーンよりも頭の良い主人公、ハリード・チェイスの女たちよりも淫乱。 どこの塑型にもはまらず、孤独な作品。
以前「ゲッタ・ウエイ」を読んだとき映画と違いなんて暗い小説なんだと思ったけど、いま読みなおしたらおもしろいと思う。
ハード・ボイルドずれをしたみなさまに送る、絶対に後悔させない一冊。