人狼

人狼 JIN-ROH [DVD]
 00 沖浦啓之テアトル新宿

 誰が押井守を必要としているのか。アニメをアートに加えようと、記号的に作品を読みとることは、彼の術中にはまることになるのに。庵野と同じく、押井もダブル・スタンダードを駆使しているのでどんな攻撃にも耐えられる。逆にどんなにまじめに語ったところですっぽりと手の中から抜け出てしまうのだ。押井は庵野ほど、露骨なことはしないけど、彼も作品を読みとろうとするものを拒絶する。
 彼の作品作りは、あらかじめ「どのように読みとられるか」というところから発想が始まると言っても過言では無い。「うる星やつら」にしても「パトレイバー」にしても「甲殻機動隊」も、原作の読み変え作業から始めている。どうしたら別の面から別の物語が語れるか?それが第一歩だと思う。設定をいじるというやり方で、アニメの脚本ではよくやることだ。
 これは藤原カムイと組んだ「犬狼伝説」が原作だが、映画では、大胆にホンのサブキャラクターだった警官を主人公に据えている。いわば外伝を書いていることになる。そこにわかりやすい“赤ずきん”を持ってくる。この撒き餌にみんな食らいついてくるが、押井にとっては、どうでもいい口実なんだよね。日本のアニメーションの人は借り物でみんな武装しているんだ。庵野の場合は開き直っちゃったけど、押井は、巧妙にもう少し難解なレトリックを持ってきて評論家転がしをしている。押井にとってアートの擁護なんか必要じゃないんだ。そこをクリアして、細部で遊ぶ。徹底したIFの戦後を再構築して楽しんでいる。
 技法として、影を一段落ちにして、立体感を強調していない。いまのテレビアニメ、OVAになると、二段、三段は普通だから、これは珍しい。監督の意図だろうか。昭和30年代の邦画のようなライティングを意識しているのだろうか。時代性を出すために。確かに細部にこだわる描写のために評価が高いのは分かるけど本質的じゃないよね。ホントのオリジナリティのある日本のアニメ作家は大友克洋だけだと思う。
 (角田)