富の未来(上)

富の未来 上巻

富の未来 上巻

未来学者アルビン・トフラーの最新刊。正月にNHK-BSでこれに基づいた番組を放映しているのをちょっと観たんで気になって読むと、これが凄まじくオモシロイ。
いま何が起こっていて、これから何が起きようとしているのかが明確に語られていて眩暈がするほど。
去年流行ったweb2.0なんかは一体どういう歴史の流れに位置しているのかすでに折込済みで、さらにどういう方向に進むかも紹介されている。上巻だけでお腹いっぱい。
ここでは今年これからネット、雑誌、テレビで必ず流行るだろうキーワード、プロシューマー(Pro-sumer)、生産消費者が紹介されている。
生産に関わる+消費者なんですね。わかりやすい例だと、DIY。ホームセンターなどで自分で材料を買ってきて家を作る人。あるいは自分でこだわりの食材を集めて料理を作る人。毎夜星を観察し軌道を監視し続けるアマチュア天文学者。昔は趣味人とかハイアマチュアとか云っていた好事家の集まりでしかなかったけど、インターネットのおかげでそれが世界的な広がりとネットワークを持ち世界に影響を及ぼすことができるようになった。Linuxの開発と実際に世界の政府機関で運用されている実績を見るのが最適の例だろう。
そうなるといままでの、いわゆるフルタイムの労働者=プロフェッショナルという図式はここで崩れる。どう考えてもいままでの「フルタイムで労働して賃金を受け取るプロより優れているものはない」という枠組みでは捉えられない人々の動きが現れていることがわかる。トフラーはそれがプロシューマーの台頭だという。
ただプロシューマーにせよ、web2.0にせよ、所詮はアマチュアの仕様であって、いまはカネや市場に直接結びつかないからダメじゃないかという考え方もある。お金と交換できないならそれは労働ではないし、そもそもプロシューマーの活動は、ボランティアでお金を生み出さないじゃないかという指摘もできる。確かに私もずっとそう考えていた。でもトフラーはここで更にいままでの経済学では勘定に入れていなかった新しい富の考え方を提唱する。
例えば、高齢化社会で健康を増進する器具を販売することは、最終的に医療費を抑制することにはならないか。被災地での人道的な医療援助等のボランティア活動はどうだろうか。それが人命を助け復興を助けることで生み出されるものは直接経済に反映することはないが、彼らが活動するかどうかで社会が変化することは明らかだろう。地域社会への貢献もそうだろうし、子育てや介護も同様だ。果たしてこれらの活動で生み出されるものは富とは云えないだろうか?これらは生産消費の形で現れてくる。
これらはいままでの経済学の視点から見ると、生産をしていないので直接的な経済効果としてはカウントされない。だからいまの社会と経済の論理からいうと家族介護や子育ては切り捨てられる方向にしか進まない。それが計算できる形で経済に組み込まれるとどうなるだろうか。賃金労働だけが社会への貢献でないことが明らかになるはずだ。社会全体が時間を売るだけの労働スタイルから脱却することになるのだ。
そう思うと、実際にいままでの単純なモノの消費から生産消費という価値を持った形に世の中がシフトしつつあり、以前は考えられなかった生産消費者を対象とした市場(介護、健康など)が形成されていることに気付くだろう。
確実に労働=プロ=賃金の意味合いも変わりつつある現在、労働VS余暇という考え方ではなく、生産消費を世の中の経済の仕組みに取り組み、価値のある富としてカウントする時代に来ていると云う。
これはフルタイムの労働からの脱却にも繋がる。フルタイムという考え方は産業革命以降の工場での労働の考え方で、脱工業化の付加価値創造型社会には相応しくないのにみんな気付いていたがどうしていいのかわからないのが現状だと思う。
いまの日本の混乱を見ていて、そこに生産消費者という考え方を入れるとピターっと当てはまってしまう。他にも、官僚、教育、法律のシステムがなぜ機能しなくなっているかについての考察もなるほどと思う。うまく説明しきれたとは思えないんだけど興味のある方はぜひ読んでみてください。