凍

ノンフィクションライターの沢木耕太郎が、登山家山野井泰史、妙子夫妻が2002年にギャチュンカン(7952m・チベット)の北壁を登ったときの出来事を記録したものだ。
http://www.evernew.co.jp/outdoor/yasushi/yasushi4-02.htm(「山野井通信」)
読み始めて淡々とした描写に、これなら「死のクレバス」(『運命を分けたザイル』の原作)のほうが派手で面白いよな、と思っていたが、読み終わってからずっしりとしたものが圧し掛かってきた。
事実の凄まじさには、何の形容詞も要らない。生死を分けるギリギリの世界、これが悪夢でなく現実であることを認識してパニックにならず、冷静に切り抜けていく手段を、気の遠くなりそうな時間をかけて成し遂げていく体力と精神力。
彼らの内側にも入りすぎず、外から見るだけでもない視点を見事に確保しきった著者の筆力に今更ながら驚く。

エベレストなどへの登山が、大規模編成をしてベースキャンプから出発してアタック隊が、酸素マスクを付け時間をかけて登頂するかたちから、軽量装備、少人数で無酸素でスピード勝負のかたちになってきたことは知らなかった。