楽園への疾走

SFマニアかと言うとそうではないし、バラード信者かと言われても違うと思う。でもそれなりには読んでいるので好きなんだとは思う。
問題は本書だ。「原爆の実験場となっている、太平洋のフランス領の小島に、生息するアホウドリを絶滅から救いに、過激な環境保護活動家たちが住みつき、次第に狂っていく…」と言うテクノロジー三部作や、「奇跡の大河」などから近作に繋がる、不健全な集団心理と暴力のエスカレーションへの連鎖は、ぞくぞくさせられる設定なんだけど、ストーリーテリングの下手さ加減で、早々にネタが割れるところがつらい。言って見れば、これは短編のネタなのですね。
あと、バラードの作品によく出てくる、テレビクルーの描写なんだけど、フィルムなのかヴィデオなのかはっきりしないし、細部が書かれていないので興ざめになるのですよね。ここらが世代的にもメディアに対する興味のバラードの限界なのかなとも思う。
ただのテレビのワイドショーや新聞記事レベルの現実の事件や、テクノロジーが既に追いついているのかな、とも思うのですが、でもコンセプトからくるイメージの美しさは、他に描ける人はいないので、アート分野との融合したら、ハッキリとしたものができあがってくるのではないだろうか。例えば「残虐行為展示会」のように。コンセプチュアルアートとして読み解けばまた違う観かたになるだろう。