失踪日記

失踪日記

失踪日記

評論家、大塚英志による復刊編集で太田出版から出た「夜の魚」から続く内容でこの書ははじまる。
失踪、浮浪者、変名での住みこみ土木作業、アル中と流れ流れて、よくぞ娑婆に甦って来たなあと感嘆させられる。その自分を、ギャグにして、客観視しまくって、よく描けますなあ。普通は無理です。
花輪和一の「刑務所の中」でさえ、マニアックな細部描写と記憶力の裏に隠された、悲哀があったのに、これはそれを遥かに超越している。
「夜の魚」を読めばわかるように、暗い部分はものすごくシュールでポップに書ける才能を持った人です。今回それを封印して、ギリギリのリアリズム描写に、いやリアリズムこそが妄想、虚妄であるという恐ろしい見方を持った作風に至っているのだ。
本の中で、中島らものことがちらりと書かれているが、彼の評判の良い「今夜すべてのバーで」と言うアル中体験記があるが、同じ頃に読んだ同様なノンフィクション作品に、類似の表現が出てきて唖然としたことがある。結局彼は自分の体験を、笑い飛ばし客体視ことが出来なかったのかなといまも思う。一方で吾妻ひでおはいまも生きていて、続編が待望される。
夜の魚 (太田COMICS―芸術漫画叢書)

夜の魚 (太田COMICS―芸術漫画叢書)