雁坂峠(2019m)(埼玉県大滝村(現秩父市))

ryotsunoda2005-08-15


 日本三大峠の一つに行ってきました。あとのふたつは北アルプス針ノ木峠南アルプス三伏峠です。
 5時30分発。2時間30分かけて約100キロ走り国道140号線、埼玉の秩父山梨県塩山甲府を繋ぐ雁坂有料トンネル手前にある、豆焼橋脇の出会いの丘という駐車場に到着。
 期待した「出会い」はもちろん無く、家族連れの3台のキャンピングカーが停まっていた。この一帯の山は東京大学の演習林で、ここも付属施設の一部という説明書きがあった。
 天気は快晴、じっとしていても汗が流れる。8時出発。だが地図を忘れてすぐに引き返す、やはり無いと不安。赤く塗られた豆焼橋を渡る。橋から覗くと目も眩むほど下に豆焼沢がある。この沢は沢登りとしても有名らしい。
 秩父というか奥秩父は、かなり山奥深い道路が走っているが、山自体のスケールも大きいので、走破時間がかかることを覚悟する。
 豆焼橋の脇から舗装された作業道を行く。しばらくすると雁坂トンネル管理の無人の建物があり、さらに進むと広場がありそこで道は行き止まりになって、ここから登山道がはじまる。実はこのルートは古い国土地理院の地図には載ってないんだよねえ。ネットで最新のルート地図をアップしてくれた人がいたので助かる。
 細い道は緩やかな傾斜で山裾を巻いて行く。特に険しい段差も無くすいすい登る。このあたりは落葉樹の雑木林だ。ここは昔からの道だったのだろうかねえ。ハイキング用じゃない気がする。
 しかし徐々に傾斜がきつくなり、道は九十九折になる。従って進む速度も落ちる。今日はようやく家の押入れから発見したシェラフ(寝袋)を持参したのでいつもより重い。肩にずしりと重さを感じる。
 それでもハアハア言いながらも、9時にあせみ峠に到着する。ベンチがあり、時折風が抜けると涼しく気持ちが良い。ここからは尾根の東側を巻きながら高度を上げるルートとなる。平坦で歩き易いが、いつも左足が谷側で右足が山側になるために疲れ方のバランスが悪い。緩やかな一定の傾斜の登りなので、メリハリの無い持久走になってつまらない。景色もずっと山の端っこというカンジで、眺望も無い。地図とルートが違うのでいまどこを歩いているのか、容易にわからず精神的にもダメージがある。
 などと考えると余計にヘタレになる。ともかく精神的に良くないので、どこだかわからないが、11時にオニギリを食べて休憩する。
 この頃になるとカラマツ林になり、大きな岩の縁を回ったりと少し変化が出てくる。やがて尾根が見えてくると白樺が多くなってくる。小雨がパラつくがすぐに止む。いつの間にか曇り空になっている。
 12時30分過ぎに、雁坂小屋に着く。ここには麓の旅館から来る管理人のいる小屋とテントサイトがある。ベンチ脇を流れる水を飲み一息つく。今日は管理人はいないようだ。中を覗くと一泊2000円也の張り紙。ベンチで恒例の豚汁をありがたく頂く。
 かなり疲れたなあ、天気も悪いし、と弱気になるが、出発する。15分ほど登ると南側の視界が一気に開け、雁坂峠に着く。天気が良ければ富士山まで遮るものはないだろう。奥には奥秩父の山々が見える。素晴らしいね。南に下ると山梨に出るし、東は東京の雲取山、西は奥秩父の果てまで延々と縦走できるルートになっている。近くに雁坂嶺が見えるが、ここから200メートル登り45分かかるらしい。うーむ断念する。ちょっと自信がない。
 14時過ぎに出発する。雁坂小屋のところまで戻ると、今度は北周りの周回コースを取る。こちらの方が昔からの峠越えの道だったそうだ。でも狭いよね。こんどは左右向きが逆になったのでまた慣れるまで左右の足のバランスが悪い。
 30分ほど行くと沢に出くわす。これが豆焼沢の源流だ。ということはここまでまっすぐ沢を登ってこられるのかしらん。水はものすごく冷たい。
 森の斜面に幾本もの倒木が重なり、そこに緑の苔がびっしりと生えている様が美しい。思わず立ち止まる。夕方が近づきどんどん暗くなってくる。今日は3人しかすれ違わなかった。マイナールートなのかそれとも時期外れなのか。さっと道を横切るものがあり、野リスが樹を登って行った。
 16時30分、シラカバ、ダケカンバなどに囲まれた、赤い屋根の樺小屋に到着。水場まで5分とあるが、まだ残っていそうだからあとで考えよう。まだ新しい避難小屋は、ログハウス仕立て、12畳の一間に6畳の土間。土間には簡易ストーブがある。窓は三方にあるので明かりはないがうすぼんやり光が差し込む。
 荷物を下ろし投げ置く。寝転がる前に室内を点検する。窓あたりで羽音がうるさい。ヨロヨロと窓辺を動く虫がいる。黒と黄色の縞模様だ。…スズメバチか!あわてて追い出す。さらに2匹発見。これも追い出す!でも待てよ眼と足のカタチが違うぞ。と小学生のムシ博士時代の記憶を辿る。ああこれはスズメガじゃないか。ホッとする。ひとりでナニやっているんだろうかねえ。
 備え付けの薄い敷き布団の上にシュラフを拡げる。間もなく雨がポツリポツリやがて豪雨となる。ここに着いて5分後だ。やあ危機一髪。ツイテいるね。一箇所雨漏りしてきたのでバケツを置く。念のため持ってきた100円ライターを点検するが点かない。愕然とする。帰りに防水マッチを買うことにしよう。
 夕食はレトルトごはんとレトルトカレー。ご飯のパックが鍋に入らない(涙)。仕方無いのでカレーだけ温めて、冷や飯にかける。ああウマイ。あとフルーツかなんか欲しいねえ。おやつのポテトチップと麦チョコをポリポリ食う。結局誰も来ない。段々暗くなってきて、雨はいつの間にか止んでたようだが気づかずまどろむ。
 「クキェャアアアア」という大きな声がして目覚める。完全に夜だけど、案外景色や雲の灰色がよく見える。敢えて時計は見ない。時間がわかるとたぶん早い時間なので目が冴えると思うから。またさきほどと同じ悲鳴が聞こえる。殺人死体遺棄事件か、まあ寝ボケた鳥だと思おう。しばらくしてまた悲鳴が、そしてガサゴソ草を掻き分ける音がする。数キロ平方に誰もいない場所でこういう声を聴くのは良い気持ちではない。しばらく考えてネットに書いてあったことを思い出した。女性の悲鳴のような鳴き声はシカだということだ。アイツらは夜行性なのか。結局二度現れて、あの声で鳴いていた。
 翌日5時過ぎに起きる。部屋の中は湿っ気でムシムシして、ポテトチップも湿気てた。残りの水で湯を沸かし、コーヒーと酵母パンの朝食。
 まだ陽は低く爽やかというわけでもないが、上機嫌になる。意味も無く気分が良い。山だからというだけじゃない。どちらかというと、ふと旅先で目覚めたときの充実感と開放感に近いのかなあ。
 急な傾斜を下り水場に行き、給水してから6時15分出発。しばらくして朝日が差し込んできた。こういう斜めからの光も山が目覚めて来るようで、歩いていて気持ちが良い。もちろん空気は澄んで爽やか。
 下り坂を行き1時間後、雁道場というところに出る。東斜面を「黒文字橋」へ下る道標がある。地図には出ていないが進む。最初の予定ルートだと川又登山口まで下りすぎて、国道に出てからかなりの距離をまた登らないとならないために、少しでもショートカットできる方がいいだろうという判断。
 道は広く踏み後もきちんとしている。やがて尾根に出ると道が不明瞭になる。とりあえず尾根の端っこに出るが道はわからない、そして急勾配の下りだ。うーん突き進むか。下の道路の車の音が聞こえているので近いと思うのだが…。しかしやはり基本に忠実に道のわかるところまで戻り、荷物を置いてあたりを偵察する。程なく南に90度カーブした道がみつかりホッとする。無理をするもんじゃありません。マツの人工林を横目で見ながらゆっくりと下ると、やがて舗装道路に出て、さらに降りると国道に合流した。8時15分。
 ここからクルマが行き交う中、狭い歩道をだらだらと歩く。昨日と同じくらいに晴れ渡っているが、午後は崩れそうだ。
 しばらく行くと、道路脇に秩父の名水ボコボコ水(たしかこんな名前)と看板があり、ホースから流れて落ちていた。タオルを浸し、身体を拭くとサラッとして涼しい。最後の力を振り絞って、9時に出発点の出会いの丘駐車場に到着する。2日間で16km、11時間弱の歩き。お手軽な夏休み旅行でした。