外道忍法帖

山田風太郎は好きだけど、実は読みはじめたのがここ一二年というのはナイショだ。えーなんで読んでないのと言われても、まあエロ路線は好きだけど、グロなところがあまりと思ってたし、角川文庫の佐伯俊男のカバー絵も好きじゃなかったしね。たぶんその頃は伝奇小説が大好きで、角田喜久雄の「どくろ銭」「風雲将棋谷」、吉川英次の「鳴門秘帖」、野村胡堂の「百万両五十三次」、林不忘の「新版大岡政談」なんかの切れ味の良い血沸き肉踊る活劇にわくわくさせられたんだけど、それに較べたら山田風太郎は掴み所がなかった。どう読んで楽しんだら良いのかわかんなかった。でホント最近ですね忍法帖や明治文明開化ものを読んだのは。これだけ荒唐無稽にアイディアを出しながら見事に物語を操れる小説家はいないよねえ。まさに天才。
本書ではまず人が死ぬ。忍者3組×15人=45人の主な登場人物たちが皆討ち死ぬ。それでも悲惨にならないのは不思議だ。この小説が好きだという解説の三田誠広(!)が書いているが、登場人物が卑小な私怨で動いているのではなく、運命という大きな力で動いているためだろう、というのは卓見だ。徹底的に淫蕩な殺人マシーン同士の戦いなのだけど、それが殺伐としないのが筆力なんだろうねえ。書くだけこちらが打ちのめされ虚しくなる。でも読んでいて楽しいのだから困る(困ることはない)