ディートリッヒ

ディートリッヒ〈上〉

ディートリッヒ〈上〉

ディートリッヒ〈下〉

ディートリッヒ〈下〉

マレーネ・ディートリヒがセックス・シンボルというのは長年ピンとこなかった。しかし、彼の娘が書いたこの赤裸々な伝記は、マレーネという不思議な生き物が女性を越えた存在として、どのように築き上げ られたか克明に描かれている。またそれは背筋が寒くなるほど非人間的でもある。生きるハリウッド・ バビロンだ。
ジョセフ=フォン・スタンバーグが『嘆きの天使』に彼女を見出しハリウッドに招いたのは映画史の事実である。そのとき彼女はすでに娘を生んでいて、娘はマレーネの専属のアシスタントになる。毎日スタ ジオに通い、きらびやかな衣装のために、すでに身動きが取れないほどになっていた装飾過多のマレーネの手伝いをする。マレーネは映画の衣装も自分で創案し、スタンバーグ以外の監督作品では照明 も自分で決めてうるさい照明チームからも一目置かれたという。
しかし『恋のページェント』を頂点としてスタンバーグとのチームはこわれる。それがディートリヒ映画の最期でもあっ た。はっきり言って大根役者の彼女をマジックでイコンと化したのはスタンバーグであり、ディートリヒの人工美はスタン バーグの骨頂でもあった。いま思うと ディートリヒの美しさは女性のための美しさのような気がする。この世のものではない人工な美しい存在が受けたのだと思う。それが結果として彼女の一生を支配するのだが。
もうひとつ明らかにされたのが、いつも恋愛をしている彼女の姿。毎晩男を替えていた様子が描かれている。それが 日常である感覚もすごいが、相手がジャン・ギャバンからパットン将軍までと多彩だ。
後年のディートリヒはステージで復活する。特にバート・バカラックと組んだ時代が、かつての脚線美を変わらないサイ ボーグのような肉体を売り物にしてオールド・ファンを喜ばせていた。それも服の下にボディースーツを着用して身体の 線を保っていたというから鬼気迫る。