国際シネマ獄門帖

国際シネマ獄門帖

国際シネマ獄門帖

「1909年、カナダで5億年前の不思議な化石小動物群が発見された。当初、節足動物と思われたその奇妙奇天烈、妙ちくりんな生きものたちはしかし、既存の分類体系のどこにも収まらず、しかもわれわれが抱く生物進化観に全面的な見直しを迫るものだった…」というのはスティーヴン・ジェイ グールド著「ワンダフルライフ」の惹句であり、NHKの番組でCGの奇妙な生物アノマロカリスの泳ぐ姿を見た人は多いだろう。
まわりくどい言い方だけど中野貴雄はまさにそれだ。ヲタクは基本的にぐだぐら文句言っているだけでモノを作らないし、同人誌的は作ることはあるが、模倣(パクリ)だけでがオリジナリティとセンスはない、近頃では世間に適合しているようにみえる種類も発見されている(例:村上隆、宇多田ダンナ)。また最近の老齢化した種ではカネがあるとオトナ買いに走る現象も見られる。などなど。みなさまのまわりにも多く生息していて、その進化の過程は体系立てられ、次世代へと続く揺るぎないものと思われた。
が、彼は違った。種族はヲタクでありながら、ヲタクを罵倒して、オリジナリティ溢れる作品を作りながら、しょーもない部分に心血を注ぐ。アダルトな世界のはずなのに、ガキのバカさ加減で無茶苦茶に突っ走るという、ヲタク生物史では元来存在しないはずのいきものなのだ。
それでいながら映画批評文の辛らつなユーモアは抜群で的確過ぎる。はじめて映画秘宝のムックで文章を読んで以来、いつも驚かされ笑わされてしまう。本書には「デラべっぴん」に書かれたちょっと以前の時評と「秘宝」に紹介されたバカアジア映画が収録されている。その視点は紹介している映画よりおもしろかったりする。
ただね、彼の場合は、ジョン・ウォーターズ的な悪趣味じゃなくて、どちらかというと荒川区の町工場で作られ、夜店の景品として飾ってあって子供も欲しがらない、オリジナルなソフビの怪獣みたいな「本物のバッタモノ」という考えようによっては激レアなヒトなのだけどね…。やっぱ進化の歴史から外れていますなあ。
(でもさ、誰かが人造人間キャシャーンとかアニメ実写化するニュースを聞いても「ふーん」としか思わないけど、これが中野貴雄だったらと考えるとわくわくしてしまうのは正しい反応だと思うんだけど)