猟人日記

 64 中平康ユーロスペース

 黒澤、溝口、小津、成瀬と来てようやっと、中平康の時代がやってきた。誰よりも先鋭で洒脱でユーモアがあり、スピーディーでカラッとした絶対に当時のキネマ旬報のベストテンには入らなかった エンターテインメントの中に隠された実験精神、今も観る者を圧倒
する映像のシャープさ。一言で言えば上手すぎるのだ。
 江戸川乱歩賞の映画化だが、昭和30年代には刺激的なほど性的表現、作者の戸川昌子や、銀巴里で唄う丸山明宏(三輪明宏)を登場させる茶目っ気。前半は、中谷昇の女漁りと殺人事件がパズルのように散りばめられて、罠にかかっていく様子が描かれているのだが、後半、北村和夫の弁護士がミステリーの謎をひとつひとつ解決していく本格推理ものになっていく。また弁護士事務所で働く助手の十朱幸代が溌剌としていて良い。中平映画は美女を強く描くのが上手い。男勝りの活躍を見せることで映画が現代性を帯びてくる。やはり早すぎたのだろうか?
 中平康の悲劇は監督至上主義の松竹大船で助監督を経験していて、日活に移って、監督を始めて裕次郎や旭を売り出したが、それが日活をスター中心システムの会社にしてしまい、その中で監督至上主義を通そうとして理解者を得られなかった ことだろう。
 90年代の監督にも描けない作品を作ってしまった男はこれからまだまだ正当な評価を受けるはずだ。
 (角田)