抜き射ち二挺拳銃

抜き射ち二挺拳銃 [DVD] FRT-287

抜き射ち二挺拳銃 [DVD] FRT-287

某所を巡回してたら、DVD化されているのを知り、さっそく調べたらなんと500円じゃないの!シーゲル・カルトを自認しているのにいままで気付かなかったのは不覚でしたわ。早速近所のホームセンターのワゴンセールにて取得しました。


シナリオ通りに撮影して編集してみたら54分にしかならなかったので、プロローグとエピローグを撮り足して77分にしたという西部劇作品。
といっても決してシーンやカットが足りないというのではなく、ヘンリー・ハサウェイあたりが撮ったらゆうに90分以上の尺に仕上がるの素材は、定番のストーリー展開ではあるが充分に詰まっている。
冗漫に思い入れたっぷりの芝居を撮って引き伸ばすことを選ぶのではなく、あくまでも自分のリズムでタイトにすっ飛ばしているので、もし何も知らずに映画館で観たならポカンと口を開けたまま、ポップコーンを一口も頬ばることも無く劇場を後にすることになるだろう。
余計なカットや仕草がないし、それどころが切りつめてどこまで物語の語り口を省略できるか試しているくらい、観ていて気を抜いたり目を離すことができない展開の速さ。
当初のシナリオに無く撮り足されたというプロローグだが、にもかかわらず力強さと省略法には唸ってしまう。これだけ少ないカットで効率的に語ることのできる確信的な演出は、最終的な編集に自信がないと普通怖くてなかなかできるものじゃない。
さらにアクションシーンになると加速度を増し、ジリジリとした間でわかりやすいサスペンスを作り出すヒマもなく、時間と空間を自在に操る的確なモンタージュで、一気に暴力が爆発するが如くラストまで雪崩れ込む。ここのオーディ・マーフィーのアクションが格好良い。こういうハッとするアクションのアイディアもシーゲル印の特徴だ。
観客に考える時間を与えないのは、細かいところを見られると低予算早撮りのボロが出るからでもあるし、サスペンスを生み出すような悠長な演出の時間がないというのも事実。それがスタイルに昇華されるのがシーゲル祭りなのだ。――おっと思わず一般論を書いてしまった。
あと指摘しておきたいのは、一見殺伐としているシーゲル映画には必ずユーモアがどこかに入ることだ。ユーモアというよりはオフビートな感覚かもしれない。それはデキの悪いシナリオをどう撮るかと紙一重でもある。この映画の主人公の保安官と助手の関係だってかなりいい加減で登場人物の不自然だったりする。ハリウッド映画のルールのヒーロー、ヒロインが結ばれるのに、誰が誰と結ばれるのかよくからないし、そんなことどうでもいいだろ、と遊んでいるように思える。しかしそれもひとりひとりの人物の距離感を描き込み、会話のリズムでシーンが進むので不自然さは気にならない。逆にそういう性格の人物だろうと思わせてしまう。だからシーゲルの世界には、敵も味方も余計なこと野暮なことは云わない、観客に突っ込まれるようなマヌケな行動を取らないプロしかいないのだ。
監督により、細部がすべてコントロールされているので、映画の世界にぐいぐいと引き込まれてしまい、登場人物の感情というよりは、映画の感情の行方にドキドキしてしまうようになる。これがシーゲル映画の最大の魅力だ。
観終わったときには、シーゲルらしくないなあと思っていたが、こうやって書いてみるとドン・シーゲル作品だと改めて思った。