旅人国定龍次

旅人(たびにん) 国定龍次〈上〉

旅人(たびにん) 国定龍次〈上〉

山田風太郎の明治ものは、司馬遼太郎への意趣返しだと誰かが言ってるのを読んでアッと思った。これはさらに司馬の幕末ものへの挑戦だ。山田風太郎は幕末ものは書いてないハズだし、さらに股旅ものも書いてない。どちらもキライな世界に違いない。それでもこんなにオモシロイものを書いてしまうんだから、天才だ。
名月赤城山国定忠治に息子がいて、全国の任侠親分を渡り歩き、幕末の京都に辿り着く物語は滅法オモシロイし、義理人情のキレイ事の裏にある汚い世界をユーモアと悲劇として見事に描いている。そこには司馬美学、長谷川伸美学の忍耐とか情を捨て大局を見るみたいなことがいかにヤラシイか看破している。
あとさ、山田風太郎のは女性を描くのがべらぼうにうまい。アクションまたは大衆小説での女性はセクシー要員か、松原千恵子のように主人公を窮地に追い込む人質要員でしかない、というのが私の差別と偏見だ。だけど作者の場合は、女性を描かせるとものすごく活き活きとして剣豪の主人公も顔負けな勝気で美人でアタマが良くて一途なキャラクターが出来上がる。すごいねえ。ひたすら感心感動する。