悔いなきわが映画人生 東映と、共に歩んだ50年 

悔いなきわが映画人生―東映と共に歩んだ50年

悔いなきわが映画人生―東映と共に歩んだ50年

 東映会長の自伝。雑誌「財界」という経営者が読む雑誌に連載していたためか、「俺礼賛」の嵐である。 まあ著者が関係各位に配るには良い本だろう。中味はほとんどないし、どこまで本当かは不明だ。ただ、東宝、松竹の代表との対談はそれぞれの社風が見えておもしろい。東宝会長とは、自分が現場出身でないことを下卑し互いにアニメーションが儲かるという話で盛り上がったり、松竹はまあ歌舞伎があるからねで終わってしまう。当の岡田は、東大経済出で東映の現場からのたたき上げで、大泉撮影所を立てなおし、大川社長の急死後、社長、会長職を歴任するというなかなかドラマティックな履歴だ。
 東京大泉撮影所時代にかれのもとでデビューした深作欣ニが対談で「会長の好きな映画はなんですか」と聞いたのに対して、特に無い、そのことが逆に映画に淫しないで経営面からすぐに路線を変えられるとうそぶく。時代劇から任侠路線への変更、さらに実録へと(ただ実録はすぐに終わったと嘆く)、 東映の無節操さはこの人が作ったと言っても過言ではない。ただ、社長就任後、プロ野球球団・東映フライヤーズ売却、NETテレビ(現テレビ朝日)乗っ取り事件など以外、ほとんど「なにをやったか」ではなく、「なにをしなかったか」ということだけが目立つのは、斜陽産業の悲しさとしかいえない。ほんとうにおもしろい話はここに書かれていないことだろう。巻末の東映の配給作品記録は資料として役に立つ。