真夜中のサバナ

真夜中のサバナ 特別版 [DVD]
Midnight in the Garden of Good and Evil 97 クリント・イーストウッド (ビデオ)

 150分を越える映画と言うことで今まで敬遠していましたが、見始めたら、いやあこれが面白い。イーストウッドの演出に酔いました。物語はそれほど、目新しいものではなく語り口でこれだけ持たせられるアメリカ映画監督はいないだろう(爆発シーン、CGなしで)。
 サバナという南部の静かな小さな街。そこの大金持ちのクリスマスパーティーで殺人事件が起きる。たまたまクリスマスパーティーを取材に来ていた雑誌記者が、この事件を題材に本を書こうと取材を始める、そこで出会う不思議な人たち、時間が止まったような街に住むのは、一癖も二癖もある連中。いつも身体中にアブをまとわりつかせている老人。主人の犬が死んでも、首輪だけ散歩につれていく召使い。ほとんどサザン・ゴシックの世界だ。やがて始まる裁判。そこで明らかになる事実。保守派のイーストウッドがなんでこの映画を作ったのかは良く分からないが、静かではあるがなかなか挑発的なひねくれた映画だ。他の人が撮ったら面白くもなんともない映画が出来たに違いない。
 全体のトーンを統一した語り口はもはや名人芸といえる。『パーフェクト・ワールド』あたりで完成した演出は安定していて観ていて安心できる。 視線による切り返しが無駄なくこれだけ的確に出来、画面にでている全員から的確な演技を引き出して様子は指揮者のようだ。移動撮影も最小限で気負ったカットもほとんど無い。ものすごいアップも無いし淡々とカメラは的確な位置に置かれる。
 ある点では、ハワード・ホークスを越えたんじゃないかとも思える。ただ叙情派なので、どうしても演技のテンポでカットの長さを決めていくために映画がどんどん長くなっていくのだと思う。もともとアクション映画が上手い監督でないからそれで良いと思うが、でも省略法などは若い監督などよりは良く知っているから映画は決してだれない。
 この独自の語り口、たくさんのカメラで撮って編集で切り刻むような安直でない職人技に酔うつもりで借りるといいです。
 (角田)